第12回「怠け者で反応が鈍いのは、包容力と寛容な心の才能の芽」 〜叱らないで!その短所、お子さんの才能です〜 文:小鳥遊 樹(たかなし いつき) イラスト:air,(エア)
※こんにちは、小鳥遊 樹(タカナシ イツキ)です。
子どもの造形絵画教室を主宰して24年目になります。
これはお母さん達の子育ての悩みを、
会話形式で説明・解決していく子育てコラムです。
文中のエピソードや登場人物は、
筆者の経験を元に、個人情報がわからないように変えてあります。
あらかじめご了承ください。
【お母さまの悩み】
?:「どうしてうちの子って怠け者で面倒臭がりなのかしら?
お手伝いを頼んでも、なかなか立ち上がらなくて、
生返事ばっかり。
そうかと言って、何かをしているわけじゃないの。
単純にごろごろしているのが好きなのよ。
宿題をやるのも遅いし、
やっと始めても、ちっとも前に進まない。
放っておくとコタツに潜り込んで寝ているし。
仕事で疲れて帰ってきて、そんな風だとイライラしちゃって。
もう、毎日、毎日叱りきれないんですけど…」
T:「待って待って、叱らないで!
その短所、お子さんの才能ですよ。」
?:「あらイツキちゃん。
うちの子のグータラは才能じゃないわよ。
テキパキすることが出来ないだけなの。」
T:「いえいえ、そんなことはありません。
大切に育てると包容力や心の広い寛容性の才能になります。」
?:「あのねぇ、イツキちゃん。
包容力があるためには、自分の器が大きな人間じゃないとダメでしょう。
大きな人間どころか、最低限のことさえ頑張れないのにどうしてそんな話になるの?」
T:「時間がかかるのです。
ゆっくりとした時間の流れの中で、
安心して育む時間があることが重要なのです。
木の成長のような、大地や川の流れのような感じをイメージしてください。」
?:「そんなのんびりしたこと言っていたら何にも出来ないじゃない。」
T:「だからと言って急がせてもできるようにはならないですよ。
焦って無理やり頑張っているだけですから。」
?:「そうなのよ。怒ればその時だけは急ぐの。
しばらくすると、またうだうだグダグダ。
怒れば怒るほど出来なくなっていくみたいで、
つくづく困っているの。」
【才能の芽だと気付いたきっかけ】
T:「私がこの短所が才能の芽だと思った、
きっかけを聞いていただけますか?」
?:「そうね、参考になるなら。」
T:「アトリエにも、動作の遅いお子さんや、
制作の遅いお子さんはいました。」
?:「ちっとも仕上がらなくて、困ったでしょう。」
T:「はい、最初の頃は、
展覧会も近いから、もう少し頑張って早く仕上げようか?
などと言って申し訳ないことをしました。」
?:「それって、謝るようなこと?
当たり前のことを言っているように聞こえるけど…。」
T:「こちらの都合を優先させていますよね。
今は、途中でも構わないから、
納得のいくことをしましょうと話しています。」
?:「完成していないものを展覧会に出す方が嫌じゃないですか?
私だったら怒るけど。」
T:「それも、ご本人に考えてもらうようにしています。
頑張ったところまでを見てもらうのでも大丈夫。
どうしても完成させたければ手伝うよ。
自分一人の力で完成させたければ、その時間を取る必要があるね。
お休みの日に補習に来るなら時間を作るよ。
あなたはどうしたい?と、聞いています。」
?:「それで生徒さんは何て言うの?」
T:「みんなそれぞれですね。
途中でも構わない子、頑張る子。
でも、頑張った子が偉いという話にはしません。
自分が頑張りたい時に頑張れば良いのよと言います。
その子の才能のペースに波長を合わせることの方が大切なのだと、
長い間やっていて分かったので。」
?:「そうすると才能が育つの?」
T:「否定されないで、自分に自信の持てる子は、
実に大らかで優しい子に育っていきます。
親や周囲の大人にしてもらったのと同じように、
穏やかな反応を周りに返すことを覚えますから。」
?:「なるほど。
私みたいに、怒鳴り散らす子になるのは困るわ。
子どものペースを尊重できるように工夫してみます。」
T:「お子さんのグータラは、一見すると短所に見えます。
けれど、実は豊かな包容力と寛容な心の才能になるということをご理解頂きたいのです。」
【才能の特徴と対処法】
◆この才能の特徴(短所として現れる)
・ごろごろする
・とにかくよく寝る
・反応が鈍い
・動作が遅い
・人の何倍も時間がかかる
・聞き流す
・なあなあで済ます
・笑いに変えようとする
・適当
・人に流される
◆短所に見える状況の対処法
?:「そうは言ってもね、イツキちゃん。
あんまり動作が遅いと、当たり前にやらなきゃいけないことについていけないでしょう?
それが心配なのよ。」
T:「当たり前だと決めていることって、大人や社会の都合なんですよ。
みんなが同じことができるようになったら、
みんな同じ仕事を目指しちゃいますよね。」
?:「うちの子にはうちの子にしか出来ないことがあるってこと?」
T:「そうなんです。
オンリーワンの才能なんですよ。
しかも素晴らしい才能です。
才能が豊かな子ほど、おっとりのんびりしていると思います。
その才能が開花するためには、否定されて育ったのではダメなのです。
自分に根拠のない自信がなくては。」
?:「そんなこと言ったって、出来ない事ばかりなのに、
怒らなかったら前に進まないじゃない。」
T:「怒らなくていいんです。
叱る必要もない。
もうすぐ時間だけど大丈夫?と、
にこにこしているだけで、いいのです。」
?:「ええっ!にこにこ?出来ないわよ。」
T:「怒っていると思うと、萎縮しちゃいます。
そうすると、大人になっても自信の持てない、
ただのグータラになっちゃいますよ。」
?:「そんなぁ…
だったら、ずっとそのままってこと?」
T:「ダメだと思うことを無理やり直すのではなく、
才能の方を伸ばしてあげるのです。
この才能を伸ばすと、例えば伝統的なものを継承する人とか、
土を相手にする仕事とか、動物を相手にする仕事とか、
とにかく時間のかかることに根気よく取り組む性質が育っていきますから。」
?:「なるほど、そう考えれば良いのか。
こちらのテンポに合わせるのじゃなくて、
子どものテンポにあったものを経験させてあげるということね。」
T:「生き馬の目を抜くような情報戦が必要な才能もありますが、
この才能はゆっくりじっくり育てることが特徴なのです。
そういう才能が生かされる分野があるのです。
せかせかしていたら成し遂げられないようなことですね。」
?:「なるほど、例えば遺跡の発掘とか文化財の修復とかもそうですよね。」
T:「素晴らしいです、その通り。
刺繍や染めもの、木の細工などの伝統工芸もそうですね。
色んなジャンルにあう個性があると思うのです。
才能を生かして生きた方が喜びになりますよね。
誰もが同じ成功モデルを求められる受験競争は意味がないのです。
それでは世の中も偏ってしまいますよね。」
?:「確かに。
もっと自分の子どもの資質を信頼して、
才能を伸ばしてあげたいと思いました。」
T:「よく勘違いされるのですが、
だからと言って勉強に向かないということではないのです。
もし、研究をするなら、
菌とか醸造などゆっくりじっくり取り組む分野もありますね。
あらかじめ時間がかかるんだということを予測して、
優先順位でやりたいことの時間を確保してあげて欲しいです。」
?:「本当ですね、やらせなければならない事ばかりさせていました。
親の思い込みで可能性を狭めない様に気をつけたいと思います。」
T:「そんな言葉が聞けて嬉しいです。
とても豊かで大らかで広い、ゆったりと流れる時間を活かせる性能ですから、
いろいろと試してみて下さい。」
◆エネルギーの発散方法
?:「そんな才能なら、
毎日早くしなさいって言われるのは辛いですよね。
何かの方法でストレス発散ができるかしら?」
T:「ありがとうございます。
この才能を持つお子さんなら、土いじりは好きだと思います。
泥だんごを真剣に作るとか、
木や草で小屋を建ててみるのも良いですね。
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動物を可愛がるのもお勧め。
ペットでも牧場で乗馬体験でも。
畑を耕す、キノコを採ったりタケノコを掘ったり。
記念樹を植えて一緒に世話をするとか。
いずれも時間をたっぷりとって、
焦せらない時間を楽しんでください。
筋肉や体力を作ることも大切だと思います。
考古学の教室に一緒に参加して、
遺跡発掘を体験してみるとか。
恐竜の研究も良いと思います。
陶芸などもお勧めですよ。
この才能にプラスして激しさのあるお子さんならば、
穴掘りや薪割りなども良いと思います。」
?:「なるほど、才能はひとつじゃないものね。」
T:「そうなんです。
乱暴で怠け者という二つの才能の短所が出ることもありますから。
大人が愛を持って育てれば、
情熱的で包容力がある才能になりますよね。
逆に短所を叱り、攻撃して育てれば、
乱暴者で怠け者の大人になると思います。」
?:「親の対応次第で、子どもの人生が変わるのですね。
一人として同じ子はいないのだから、
友達の子どもを羨ましがって、
同じように勉強させようとしても意味はないわよね。」
T:「良いところに気がついてくださいました。
オンリーワンで良いのです。
ナンバーワンになるための努力は、
ご本人が必要だと思った時に、
自分の得意な分野でやれば良いのです。」
?:「なるほどね。他にもあるかしら?」
T:「例えば、コーヒー屋さんで次に買う豆を選んでもらうとか、
味噌や醤油の製造過程を見に工場見学に行くとかはどうですか?
味噌の味や豆の種類の当てっこも面白いと思います。」
◆アトリエの授業では
?:「それは楽しそう。
アトリエでは、いろんなお子さんがいるから、
そんなにのんびりした体験はさせてあげられないわよね。」
T:「いえいえ、
縄文土器の博物館を訪ねて遊ぶとか、
土粘土を焼いてくれるアトリエに遠足に行って、
土笛や土鈴を作ることもします。」
?:「他にもありますか?」
T:「農業大学校の収穫祭に遊びに行くとか、
農業公園で体験コースに参加したりもしますね。
画材だと、コンテは気持ちに合うと思います。
洞窟の壁画なんかも良いので、
板に漆喰に似たメディウムを塗って、
描きごたえのあるアクリル画に挑戦してもらったりもしました。」
◆将来に活かせる道
?:「それはなんだかとても楽しそう。
子どもの才能を伸ばしたければ、
時間を取って、余裕を持たないといけませんね。」
T:「素晴らしい、おっしゃる通りです。」
?:「さっきもいくつか出てきましたけど、
将来、この才能を職業に生かすなら、
どんな感じになるの?」
T:「はい、資質を大切に育てると、
穏やかで、温厚、心の広い面倒見の良い大人になりますから、
時間に追い立てられない職業の方が向いていますね。」
?:「マイペースでできる仕事かぁ…。
職人とかかな?」
T:「大地や動物に触れたり、伝統を継承するような仕事が良いですね。
畜産や菌、土木関係。
他の才能を合わせて育てることによって、とても多くの仕事ができるようになります。
動物の飼育係や調教師、靴職人や蕎麦職人。
バイオ技術者、養蜂家、古美術商など。
数限りなくあると思います。」
?:「不安しかなかった子どもの将来が、なんだか楽しみなものに思えてきました。」
【お母さま達へのエール】
T:「この才能を持つお子さんのお母さまは、のんびりと動くお子さんを急かすので大変です。
けれど、大らかさを育てると、
寛容さや温厚さを持った優しいお子さんになります。
だから、是非この才能を育てる子育てをしてみて下さい。」
?:「なるほど!よく分かりました。
今まで叱ってごめんね。と、子どもに謝ります。
イツキちゃんありがとう!」
T:「こちらこそ!
話を聞いて下さってありがとうございます。
お子さんが心身ともにそばにいてくれるのは、
高学年になるまでの10年くらいであっという間です。
限られた時間を楽しくご一緒に過ごして下さいね^^。」
第12回「怠け者で反応が鈍いのは、包容力と度量があることの才能の芽」
〜叱らないで!その短所、お子さんの才能です〜を、
最後までお読み頂き、ありがとうございます!
いつでもゴロゴロし反応が鈍くなかなか動かない子を、
シャッキっとした子になるようにと今まで一生懸命に叱ってきたお母様
もっと生き生きと活動的にさせたいと思っても、
叱らない方が良い訳をお分かり頂けたでしょうか?
このコラムでは叱らなければいけないと思っている短所の多くが、
どんな才能に成長するかをお話させていただきます。
次回は残酷で気持ちが悪い行動をしてしまうお子さんの才能です。
ついついイラついたりムカついたりして怒ってしまうような、
お子さんの問題行動や直らない癖。
そんな短所に困っているお母様は、
「これってどんな才能なの?」と、質問してくださると嬉しいです。
出来るだけ状況を詳しくお書きくださいね。
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本記事は個人的体験談などに基づいて作成されており、脚色なども加えられている場合もあり、必ずしも各読者の状況にあてはまるとは限りません。この記事の情報を用いて行動される場合、ご自身の責任と判断により対応いただけますようお願い致します。尚、記事に不適切な内容が含まれている場合はこちらからご連絡ください。